アドバンス助産師Vol.10

2022.02.15

  • 【特集】これから産む人、産みたいと思っている人へのプレコンセプションケア
    なぜ 日本でプレコンセプションケアが必要か

    若い世代を取り巻く日本特有の問題を明らかにし、解決していくために必要なプレコンセプションケアのあり方を提案する。

国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
母性内科 診療部長
荒田 尚子

 プレコンセプションケアは「受胎前からの健康管理」が直訳であり、海外では母子の周産期転帰改善のために保健政策としてのプレコンセプションケアが実施されてきている。

 

 日本は諸外国と比較し、妊産婦死亡率や周産期死亡率は世界でもトップレベルで低値を示す一方、日本特有の多くの問題を抱えている。まず、若い女性の低栄養やボディイメージの歪みからくるやせの増加と低出生体重児割合の増加、それに伴う子どもたちの長期的な健康問題への懸念がある。次に、先進諸国と比較してヘルスリテラシーが低いための諸問題も知られている。例えば、HPVワクチン接種の事実上8年半の停止、その他のワクチン接種率、子宮頸がん・乳がん検診率、葉酸含有サプリメント摂取率、低用量ピル内服率が先進諸国と比較して低値であること、女性の月経にまつわる諸健康問題に伴うQOLの低下、避妊や性感染症対策のパートナーへの依存性などである。若い世代の望まぬ妊娠による人工中絶、DV、児童虐待などの増加、結婚や妊娠を望まない若者の増加による少子化問題の一方で、妊娠年齢の高齢化に伴う生殖補助医療実施数の増加、是正されないジェンダー格差も問題である。

 

 これらの日本での問題を解決していくためには、絶対的に不足している「前思春期から若い世代に対する国際標準の性と生殖に関する教育」を早急に補填しながらプレコンセプションケアを進めていく必要がある。日本でのプレコンセプションケアは、周産期転帰改善のみを目的とするのではなく、「前思春期から生殖可能年齢にあるすべての人々の身体的、心理的および社会的な健康の保持および増進」と定義し、現在から将来にわたる自らの健康のみならず次世代の健康の保持及び増進を図り、国民全体の健康を向上することを目的とすることを提案したい。

 

 (参考文献:荒田尚子、産科と婦人科8(5)873, 2020)

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