アドバンス助産師Vol.10

2022.02.15

  • すべての男女にもっと”命を繋ぐ“ための知識を:プレコンセプションケアを子どもまで

    助産師さんこそ、プレコンセプションケアの伝え手として適任と思います。皆さんのパワーに期待します。

公益社団法人日本産科婦人科学会 理事長

大阪大学大学院医学系研究科 教授

木村 正

 世の中はゲノム(遺伝情報)の時代に入りました。妊娠の現場にも出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT)という形で遺伝情報を知るための検査が入ってきています。この技術にはダウン症をはじめとする特定の遺伝的バリアントを持つ方々を排除するものだ、とか生命を人為的に選択していいのか、という批判が常に付きまといます。

 

 セクシャル・リプロダクティブヘルス・ライツ(SRHR)という重要な概念があります。性と生殖の健康を維持する権利と自己決定権が謳われている、重要な概念です。日本は性と生殖に関する自己決定力が弱いと感じます。その理由は性と生殖に関する知識が乏しいからだ、と思います。出生前検査・不妊治療・避妊・中絶・性交渉など性と生殖に関する自己決定をするには知識が必要です。出生前診断やPGTを希望する人に、そう思った段階でこの検査の倫理的問題点などをいくら説明しても、あなたは優生思想を持っていませんか?と問うようなものとなりがちです。それでは科学技術を享受したい人と共生社会を目指す人の対立しか生みません。

 

 もっと前、子どもの時から、共生社会のあり方、染色体バリアントを持つ方々の存在や子ども時代・大人になってからの生活、普通とは何か、さらには男女にとってセックスとは・妊娠とは・子どもを持つとは・親になるとはどういうことか、病気があっても妊娠できる、などプレコンセプションケアの中身を明るく正しく伝える必要があると思います。今の少子化も、なんとなく抑圧されているように感じる性と生殖に関する自己決定も、すべて「知らない」ことが根底にあるのではないでしょうか。

 

 それを誰が伝えるか?私は助産師の皆さんに期待します。中立的で、妊娠や出産、中絶や避妊、さらに不妊も含めて様々な女性・家族の現場を経験されている助産師さんこそ、未来ある子どもたちの伝え手として適任と思います。プレコンセプションケアを子どもまで…皆さんのパワーに期待します。

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