アドバンス助産師Vol.16

2025.02.10

  • 全国助産師教育協議会が取り組んできたシミュレーション教育

    COVID-19や少子化の影響で「正常産」の実習機会が減少する中、2022年に全国助産師教育協議会が分娩期シミュレーション教育を導入しました。12のシナリオ教材と多様な研修を通じて、助産師学生の実践力を強化し、教育の質向上を目指します。

静岡県立大学 看護学部・看護学研究科 准教授

中川 有加

 2019年に蔓延したCOVID-19感染症の影響に加えて、想定外の早さで少子化が進展しており、助産師教育では、指定規則で定める「正常産」を「10回程度」取り扱うことが困難な状況が続いています。

 そのような中、2022年1月、全国助産師教育協議会(以下全助協)の将来構想委員会が主催となり、「分娩期シミュレーション教育の導入-基本的な考え方と事例-」をテーマにオンライン研修を実施したところ、「分娩期でシミュレーションを実施するためにシナリオを作成してほしい」との意見が多くあがったことから、同年にシミュレーション小委員会が設けられました。

 委員会では、分娩期のシミュレーション教育推進のための教育プログラム作成に着手し、分娩介助実習直前の助産師学生または分娩介助1~2例の助産師学生を対象とした、陣痛発来から産後1時間値/2時間値の観察までの分娩期のスタンダードな12テーマの教材を作成しました(表1)。

表1 シミュレーションシナリオ
テーマ1 陣痛発来主訴で来院した産婦への対応
テーマ2 分娩の進行を予測し、根拠とともに報告する
テーマ3 分娩進行者の観察
テーマ4 分娩進行の観察と産婦の状況に応じた対応
テーマ5 胎児心拍低下への対応
テーマ6 分娩進行停滞時の原因探索
テーマ7 分娩進行が停滞しているときの助産ケア
テーマ8 分娩介助の準備開始の判断
テーマ9 早期母子接触の実施の判断とケア
テーマ10 産後1時間値/2時間値の観察
テーマ11 早期破水への対応
テーマ12 子宮収縮薬使用時のケア

 作成したシミュレーションシナリオの使用・活用方法の理解を目的としたオンライン研修と対面研修を開催したところ、シミュレーション教育を導入した学習の重要性を参加者が実感し、実践力の強化に向けた教育活動につなげるために、研修の継続を望む声が多く聞かれました。

 シミュレーションシナリオには、シミュレーション実施前に必要な事前学習の内容を提示するとともに、CTGモニター波形や技術チェックリスト等の補足資料も作成しています。また、レベルアップのためのバリエーションの例示も一部加えているので、養成校の学生数や環境に応じて、日々の教育に役立て頂ければ幸いです。何度も実施できる(失敗できる)シミュレーションで、学生が“できた”という成功体験を積み重ねることが重要です。

 全助協では、評価の客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination: OSCE)と両輪で、現代の周産期医療の課題を見据え、助産師教育の質を担保するために取り組んでいます。

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